ジャガータイプEのFI化 ( Jaguar Type E Fuel Injection )




憧れの名車ジャガータイプEを外見はノーマルキャブのままFI化したいというご要望を頂き検討を開始しております。
最新のFIのスロットルボディに交換して行うのは費用は掛かりますが比較的簡単です。今回のようにノーマルキャブを改造すると6気筒3グループ噴射のなります。ここで問題になるのが通常約500°ある吸気期間が1番6番気筒のみ約180°しかなくなり700ccの単室容積に短期間で大量の気化した混合気をどうやって送るか?が課題となっております。対策としては霧化のいい12噴口のインジェクターを選定しそれを2本搭載することで24噴口とし、燃料の気化と大流量を両立させます。キャブの中に2本インジェクターを収めるレイアウトとインジェクター噴霧が上手く気流に乗って偏らず燃焼室に入る設計がとても難しいのですが・・・・・

インジェクター2本をキャブ内にコンパクトに搭載し、燃料配管はキャブの下へ通すことでノーマルの外観を維持するようにします。インジェクターへの配線も同様に設計致します。

キャブの入り口から見たインジェクターの設置状態。24噴口とすることで燃料の微粒化、混合気の均一化を図るとともにアイドル時、最も吸入空気の流速が早いところを狙ってアイドル安定性、冷間始動性、加速応答性も両立させます。

3キャブでのレイアウトです。今後さらに設計をリファインしていきます。

キャブレターのパーコレーション等熱害を防ぐためのゴムプレートのインシュレーター、耐久性のある樹脂がなかった50年前はキャブのフランジをスプリングで押し付けて固定しゴムのへたりに対応しています。すばらしい設計です。しかしFI化する場合、インジェクターの芯弁が完全に燃料を密封するため、このインシュレーターは必要なくなります。逆にキャブより燃料の気化力が劣るFIでは燃料の気化を促進させるため、ゴムプレートをOリングに変更してインマニからキャブまで直接金属接触させて熱伝導を促進させていくのが常道です。なのでそのように設計を変更していく予定です。


50年前は全て手加工?スタッドボルトが斜めに立っていたり(お蔭で簡単にキャブがはずせませんでした。)スタッドのねじ部が加工ミスでねじ山が一部なかったり、工員任せの手仕事ぶりが伺えます。この辺りも修正しながらFI化を進めて行きます。

インジェクター噴射パルス幅の計算です。目標の800cc/minに対し、今回12噴口408cc/min at 2.4kg/cm2(噴射テスト済み)を2本搭載するので成立します。もし足りなければ、燃圧を上げて調整します。

燃料噴射期間を検討した図です。6気筒の点火順序とグループ噴射の関係から①番⑥番気等の噴射期間はそれぞれ②番⑤番気等の吸気終了から約180°の期間しか取れません。また噴射タイミングも均等に振り分けるのではなく、①番と⑥番気等は最適な位置に変更することになります。

全体システム図です。カムシャフト後方についている速度計のピックアップを改造してインジェクタートリガー信号と気筒判別(TDC)信号を取り出します。3グループの吸気管負圧を1つのBOOSTセンサーに取り入れてD-J方式で燃料噴射制御を行います。加速を瞬時にリニア検知するスロットルセンサーはスロットル軸に追加工して搭載。ISCバルブを搭載してアイドル回転数の安定させると共にエアコンなど負荷変動に対して適切な回転数に調整します。燃料タンクからの燃料をフィルターを通して燃料ポンプとプレッシャーレギュレーターに送り昇圧と調圧をしてキャブ内にあるインジェクターへと供給します。排気管にリニアタイプの空燃比センサーを設置して、空燃比をモニターしパソコンからマップを最適化してECUへ送ります。燃料噴射量は運転席のダイヤルコントローラーからも手動で変更でき燃料マップに掛け算の形で噴射パルス幅を増減できます。
運転中の空燃比センサーからモニターされた空燃比マップはログとして残され、運転後それを見て容易に燃料マップの最適化できます。


3連キャブのレイアウトが大分出来てきました。もちろんこのキャブの中にはそれぞれインジェクターが2本入っています。見た目にはFIだと分かりません。次はスロットルリンケージですがここも問題があります。先ず車体のキャブは後で元に戻せるようにFI用は別に中古部品を買われたのですが1つのリンクレバーが欠落していました。別途作るようになります。下の写真がイメージ図









エンジンとのインマニのあわせ面ですが、加温するための冷却水の取り込み口が5箇所あります。それぞれの口周りに腐食があり、旧車のメインテナンスの大変さを伺わせております。ここは腐食を除去して凹部をデブコンで埋めて、ガスケットも液体ガスケットと併用して液漏れを起こさないよう信頼性を向上に努めていきます。
今回のFI化の基本要求の一つにノーマルのキャブに戻せること。があります。このため、別途お客様に同じキャブのみを購入して頂きそれにインジェクターなどFI化に必要な部品を組み込み、実車のノーマルキャブと組み替えることになりました。これまで送られてきたキャブが実車と違うとは考えずに進めてきましたが、ここに来て実車の写真と比べているといろいろ違っていることが分かりました。この頃の自動車は市販してから市場の洗礼を受けて不具合をどんどん改良していく。そういう時代だったんですね。
実車のインマニ、キャブです。

送られてきたインマニ、キャブです。

実車のキャブには付いていないオートチョークのような機構がついています。それがインマニの吸気までつながっています。当然インマニも穴がいています。
スロットルバルブシャフトの突き出し長さが実車のと違う。

こちらの写真を見ればシャフトの長さの違いが良く分かると思います。
シャフトの端が曲がっているのもあります。

送られてきたキャブはスプリングでフローティングされていますが、実車はボルトでガッチリ固定されています。

インマニについているスロットルリンケージのボスとリンケージのレバーがここで当たり、スロットルが全開まで開かない。
このキャブの時はリンクの取り回しが違っていたのかも?
また、2枚目の写真のようにこの車の冷却水はシリンダーヘッドからインマニを通ってラジエターヘ流れております。インマニは吸気と水路と両方が流れる大動脈です。50年前の旧車であることなど総合的に考えるとインマニは外さず、触らず、キャブとリンク機構のみ改造して対応していきたいと考えます。その他上記の異なる点、不明点は、実車が届いてからじっくり観察して対応方法を決めて行きたいと思います。


9/9(月)予定通り実車が弊社へ届きました。


9/15(日)マシニングでインジェクターアダプターを加工中。

全体構想図です。
FI化するのに必要な信号は、吸気工程か燃焼行程かを判別するクランクの上死点信号(G信号)と1回転に複数信号を出し角度を割り振る信号(N信号)が必要です。それを吸気カムシャフトの端についているタコメーター用の回転センサーを改造して比較的簡単に作る予定でしたが、


回転センサーを外してみるとなにやら電力でタコメーターを動かす仕組みになっていました。電動ドリルで軸を回転させオシロスコープで出力波形を見てみると回転数に比例して電圧が上がっていくサインカーブの様です。これはセンサーというよりAC発電機です。びっくりです。この頃はトランジスタやICチップが無くてタコメーターは全てこの方式だったようです。恥ずかしながら私は初めて見ました。で、この中にG,Nセンサーを組み込むのは不可能なので新規にG,Nセンサーユニットをこの回転センサーと同じ形状で設計製作しタコメーターを動かすためにECUの回転数から新たに電力出力を出すユニットを製作するしかありません。なかなかスムーズには行きませんね。

カムシャフト側の形状です。オルダムカップリングのスリットが入っています。
この記事へのコメント